石徹白暮らし体験談 稲倉哲郎さん - 第一号:2009年7月

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まちと田舎を比較してもしょうがない、
そういうもんだと割り切ってしまえばそれまで

―――石徹白に移り住むにあたって、葛藤とかはなかったんですか?

やはり、子供の教育のことは考えましたね。少人数の小学校では、視野が狭くなっちゃうんじゃないかとか。いろいろな人にも相談したのですが、結局のところ、親次第じゃないかと思いました。まちの学校に行ったからといって、視野の広い人間になれるかというと、そうとも限らない。こういう特殊なところで育った人間が、世の中のためになるかもしれない。最終的には、「なんとかなる」と思って、決断しました。

―――実際住んでみて、困ったことはありませんか?

今のところ、教育の面で困ったことはありません。娘は石徹白のことが大好き。そういうふうに育ててくれている学校に感謝しています。

医療に関しても、幸い家族ともども、命に差し障るような大きな病気・怪我はありませんでした。今は、まちの中であっても病院をたらいまわしされてしまう時代ですから、田舎にいてもまちにいても、病気や怪我で大変なことは起こりうることです。

結局のところ、世の中何でも比較の話になっちゃうんですよね。まちと田舎を比較すれば、それは不便なことはたくさんあります。地理的な条件は、比較してもしょうがないことです。石徹白には確かに大病院はないけれど、都会では得られない自然環境ときれいな水があります。都会の生活基準を持ち込んでしまうと、スーパーが近くにないから不便だということになってしまう。それはそういうもんだと割り切ってしまえば、それまでです。

―――お仕事のほうは、どのような状況ですか?

石徹白に来て最初の2年間は、芳男さんのほうれん草を手伝っていました。その後、無農薬・無肥料栽培をはじめて、今年で5年目になります。5年目までにある程度の形ができあがることを目標にしていました。幸い、4年目まで順調に推移しており、この調子でいけば、当初の目標が達成できるのではないかと思います。

石徹白は、自然条件に恵まれた土地です。寒暖の差があって、水もきれいで豊富なので、美味しい野菜が採れます。一方、冬は雪に閉ざされるため、農業ができる期間は短く、また、大規模経営に向いている土地ではありませんので、大もうけはできませんが、生活に困らない程度の収入があればと思っています。

これは半分冗談ですが、夏場は野菜の仕事をして、冬は左うちわで悠々自適な生活ができればと思っています。

子供たちが住める場所であるために、
できる限りのことをしたい

―――石徹白の将来について、どのように考えていらっしゃいますか?

子供たちが大人になったとき、どこに住むかというのは、本人の意思によると思います。だけれども、学校・仕事といった最低限の生活基盤がなければ、石徹白は住む選択肢にもならないかもしれない。子供たちが将来、「石徹白に住みたい」ということになったとき、ちゃんと住めるような場所でなければならないと思います。人口が減り、小学校がなくなってしまうおそれがあるということがわかっていながら、何もしないでいるというわけにはいかないと思います。子供たちが住める場所であるために、できる限りのことはしたいと思います。

―――最後に、石徹白に住みたいと考えている方へのメッセージをお願いします。

来るなら来い!っていうところでしょうか(笑)。人が住むのにいいところであることは間違いありません。先の保証は誰にもできないけれど、その気になれば、何とかなると思います。


聞き手:平野彰秀・馨生里